『女囚さそり けもの部屋』

刑務所、逃走劇を経て、ついに社会に放たれたシリーズ三作目の『さそり』。地下鉄にだって乗っちゃうし、渋谷の路上で『ファンタ・グレープ』だって飲んじゃう。もちろん働いたりもする。洋裁店で足踏みミシンを使ってるところなんざ、時代を通り越して『萌え』を感じる1シーン。そんなさそりと、白痴の兄を養うため、マッチ一本で陰部をのぞかせ、時には身体も売り、兄の性欲も処理したあげく、その子どもを身ごもる女、ユキ。社会の底辺を生きる、二人の女の友情めいた話が本作。観ている側との距離がさらに近くなっただけに、その陰鬱な描写もまた、身近なものとなって迫る。

見返すたびに全編を通して、さそりとユキの関係だけでなく、様々な「対比」で構成されていることに気づくこの映画。さそりとユキが擦る「はかなさ」の象徴としてのマッチの炎、そして終盤、下水道に逃げ込んださそりを追い詰める「劫火」。この劫火は無慈悲な権力の象徴か?はたまた恨みの炎へのしっぺ返しか?

ユキはおそらく、この先も『けもの部屋』から出ることは叶わない。そんなラストでも奇妙な爽快感があるのは『さそり』が力無き者の代弁者、都市伝説としての立場を明確にして一幕を閉じたからではないだろうか。うん、そういうことにしよう。